副ゼミ長が訊く『Windows Outside』

製作者|土屋宥貴

2022.12.19

▲本作は PC 上で遊ぶことが出来ます。https://unityroom.com/games/wind0ws0utside

目次

1.「副ゼミ長が訊く」とは?

―  初めまして!09 ゼミの副ゼミ長、猪口主浩です。
  「副ゼミ長が訊く」って何?と思われる方、タイトル名から察された方、
  様々かと思いますが、新企画ということで概要について説明させていただきますね。


  改めまして「副ゼミ長が訊く」とは、
  副ゼミ長が映像作品の制作者にその作品を通して制作活動について伺う企画です。
  これは私が某企業様のインタビュー記事に憧れて企画したという経緯もありますが、
  asobi-lab の HP に掲載するコンテンツとしてゼミ生の制作活動のメイキングが見たい
  という意見を実現しようという意図もあります。


  本来であれば「ゼミ長が訊く」の方が適任であり、収まりも良いのですが、
  私がやりたかったことだから仕方ない!(笑)
  今後この企画で記事を継続して出すかは不明ですが、対談でしか得られない情報も多いと感じましたので、
  是非ゼミの伝統として受け継いでいただければなと思います。
  タイトル名は変えていただいても構わないので!


  では、前置きはこれぐらいにして本編に入りましょうか。

2.レベルアップしたくて

土屋  …そろそろ良いですか?


猪口  はい。(笑) すみません、始めますね。
   …とはいっても、これってどういう感じで進めたら良いんやろ?


土屋  僕も質問リストを参考に意見はまとめたつもり…だけど、そんなに上手くは話せないかな。
   なので、ゆるい感じでお願いします。(笑)


猪口  あっ、了解。(笑) まあ、ぼちぼちやりましょう。
   土屋くんがジャンキャリで展示されていた『Windows Outside』、
   私も遊びましたが、これはどういう経緯で制作しましたか?


土屋  「Unity1 週間ゲームジャム」っていうのがあって、そこでゲームを一人で作る体験をしました。
   『ビートフリップ』という 2D アクションゲームで
   ビート板を沈めた反発力で飛び上がるという遊びなんだけど…

猪口 (実際のプレイ映像を見ながら)
   あっ、これはすごい!私は泳ぐのが得意じゃなくてビート板で遊んでたから懐かしいな。(笑)
   面白い!いや凄いな。ようこんなアイデア思いつくね。


土屋  やった!(笑) ゲームジャムだからたくさんの人にも遊んでもらえて楽しくて、
   次はこれよりレベルアップしたものを作りたいなと思った頃が
   ジャンキャリの 2、3 カ月前で丁度良いなと。
   『ビートフリップ』は簡単な 2D アクションだったから今度は少し複雑な 2D ゲームが良いかな、
   だとしたらパズルアクションが良さそうだなと考えたことが初めです。


猪口  良いよね、パズルアクション。


土屋  もともと『ハコボーイ!』、『引ク押ス』、『はたらく UFO』が好きだから
   作りたかったジャンルだったし、Unity の親子構造を利用してウィンドウをドラッグすると
   プレイヤーキャラクターも一緒に移動するシステムを思いついて
   これでパズルアクション的なことができそうだなって思ったんだよね。

▲ウィンドウの上の帯部分をマウスでドラッグしながら動かすとウィンドウとプレイヤーキャラクターも動く!
PC の操作感に近いので PC との親和性が高いですね。

猪口  えっ、あれってそんなシンプルな仕組みやったんか!
   一方の座標を参照してると思ってた…。
   というか土屋くん、ハル研究所さんのゲーム好きやね。(笑)


土屋  (小声で)
   いや、『引ク押ス』はインテリジェントシステムズさんですね…。


猪口  ああ、そうか。やばい、にわかやん。(笑)

3.やっぱり「独学」

猪口  先日、他大学の教員の方に「映像学部の学生さんはどうやってゲームを制作するための技術を学んでるの」
   と質問されたので、「多くの方は独学じゃないですかね」とお答えしたんですが、
   土屋くん自身はプログラム、グラフィック、サウンドの技術をどのように培われたと考えていますか?


土屋  やっぱり「独学」でしょう。(笑)
   プログラミングに関しては「Unity ではじめる C# 基礎編 改訂版」という本を購入して読み込みました。
   まあ、それでも完璧に C#を理解できているわけではありませんが…。
   また、プログラミング演習のような大学の授業を受けてプログラミングへの理解を深めた部分もあります。


猪口  えっ!土屋くんは大学以前からゲーム作りをしているものだと思ってたけど、そうじゃないんやね。


土屋  ああ、確かに厳密には高校生の頃には Unity は触ってたね。
   すぐに挫折したけど…。(笑)
   それ以外だと RPG ツクールで 10 分程度の短編作品を制作して公開しましたね。


猪口  なるほど、やっぱり大学以前から創作活動はしてたんやね。
   それからこれは私の専門外やから特に興味があるんやけど、サウンドはどうやって勉強したの?


土屋  音楽経験とかは特にないんだけど、「SoundQuest」っていう Web サイトを
   昔からよく見てたから、それで音楽理論を理解した感じかな。
   作曲については、『ピストンコラージュ』というソフトを使って手探りでやってみたのが
   最初だったと思う。
   ロックマンや東方 Project、洞窟物語なんかの音楽が好きだったから、それを真似てみたり。


猪口  絵も同じようなこと言うよね。やっぱり模倣が大事なんやね。
   今作も『ピストンコラージュ』で作曲したんですか?


土屋  いや、最近は『Logic pro』っていう DAW ソフトを使ってます。
   それから趣味でボスっぽい曲が作りたいなと思って
   自分が思う格好良いボス曲を集めたプレイリストを繰り返し聞いて作曲したりもしてるよ。


猪口  すげ~、もう本格的な曲作りしてるじゃん!(笑)
   それから土屋くんといえばドット絵のグラフィックが得意ですが、ドット絵のルーツは何ですか?


土屋  『MOTHER2』や『UNDERTALE』のドット絵が良いなと思ったのがきっかけです。
   Wii U に『ドットペイント』っていうソフトがあるんだけど、
   Twitter に投稿する機能があって、そこで描いたドット絵を公開していました。
   僕の Twitter はそんなにフォロワーがいないから最初はあんまり反応がなかったんだけど、
   有名な人にリツイートしてもらえたことがあって、その時に少しだけど反応をもらえて嬉しかった。
   でも、もともと僕は絵を描かない人だったから、
   練習しなきゃと思って Web サイト「Sensei by Pixiv」で人の描き方を勉強しました。

▲このプレイヤーキャラクターのデフォルメ具合が良い感じ。ウィンドウの影が再現されているのも◎。

猪口  うんうん、ドット絵って良いよね。私は『スーパーマリオブラザーズ』のドット絵を見てハマったなあ。


土屋  確かに僕も初めて見たドット絵は『スーパーマリオブラザーズ』だったかも。
   ちなみに今作は『Aseprite』というドット絵製作ツールを使いました。


猪口  やっぱり『Aseprite』か。ドット絵描くって言うたら絶対に挙げられるソフトよね。


土屋  今なら Steam で 30%OFF になってまして…


猪口  何だ?回し者か?(笑)

4.仕組みが先か構成が先か

猪口  えー、冗談はさておき。(笑) というか 2 つの質問だけで 30 分経ってるよ! 次の質問。
   今作はパズル要素が肝ですが、ゲームデザインで工夫したところを教えていただけますか?


土屋  いやー、つくづくパズル作家さんは凄いなと思いましたね。(笑)
   仕組み自体の実装はしたものの、どうやってそれをパズルに組み込むか考えるのに苦労しました…。


猪口  分かる!(笑)
   頭で考えるだけでは分からんから取り敢えず配置してクリアできるようになってるか確かめるもんね。


土屋  はい、なので「プレイヤーキャラクターの落下の軌道を利用してほしい」、
   「ウィンドウの ON/OFF の切り替えを活用してほしい」というように各ステージのコンセプトを決めて
   そのコンセプトに沿った構成で仕組みをパズルに組み込んでいきました。

猪口  おお、仕組みを考えてその仕組みを活かせる構成を考えるってことね。
   マリオみたいなゲームデザインやね。


土屋  そうだね。というか必然的にそういう順番になるのかも。

5.「パステルカラー好きやね」

猪口  今作のグラフィックはパステルカラーがよく使われていますが、何か意図があるんですか?

▲全体的にカラフルですが、色の主張はそこまで激しくない感じ。黒も真っ黒じゃないので柔らかい印象を受けます。

土屋  これ言われて気づいたんだけど確かに淡い色調だね。
   パステルカラーって「ゆるふわ」みたいな印象があるでしょ?


猪口  そうやね。


土屋  今作で使ってるのはそういう理由…ではなくて。(笑)


猪口  何やねん。(笑) 可愛らしい絵柄やから納得しかけたのに。


土屋  まず背景に青空と草原があるんだけど、これは Windows の壁紙をモチーフにしてて…


猪口  あっ!あれでしょ、『DELTARUNE』の Chapter2 でクイーンの城のモニターに映る背景!


土屋  うん、多分それ。(笑)
   それでこれをマリオみたいに鮮やかな色の背景にしちゃうとすごく楽しそうなのね。
   今作は無機質な感じを表現したかったからそれは違うなと。
   同じ理由で全体的に淡い色で統一した結果、こうなった感じです。


猪口  そうなんや。てっきり最近のインディーズゲームの雰囲気の影響を受けてるのかなと思ってたわ。
   ほら、ハニーワークスさん?やっけ…、いやそれはアーティストや。(笑)


土屋  フライハイワークスさんのこと?ああ、『神巫女-カミコ-』とかかな?


猪口  (インターネットで調べながら)
   ああ、そうそうこれこれ。(笑) ほら、淡い色調でしょ?


土屋  確かに『神巫女-カミコ-』はやったことあるから少なからず影響受けてるかも。

6.音楽は演出

猪口  プレイしてて気になったんやけど、ステージの途中で BGM が切れる場面があって次のステージに移ると
   BGM が切り替わったのですが、インタラクティブミュージックのようなこだわりがあるんですか?


土屋  えっと、その現象自体はバグですね。(笑)


猪口  やっぱりバグか。(笑)


土屋  でもサウンドをこだわった部分ももちろんあります!
   まず BGM を 3 曲制作したことです。
   『ビートフリップ』では 1 曲しか制作しなかったので増やしたいという気持ちがありました。
   それから音楽はプレイヤーの感情を高めるのに非常に有効だと思っていて、
   今作の3曲は「静か→楽しい→厳しい」というような感情の変化を表現しています。
   ワイリーステージの BGM も意識してますね。
   そしてこれはネタバレになるのでぼかして言いますが、ラストの部分ですね。
   カメラがズームしていく場面や砂嵐が起こる場面は没入感が得られるように
   何度も音の入るタイミングを調整しましたね。
   プレイヤーキャラクターが動かせない場面は不具合だと勘違いされないように“間”に注意しました。
   これはほとんど演出の話だね。(笑)

▲これがそのラストの演出。演出の全貌は是非君の目で確かめてくれっ!

猪口  最後の演出のところ良かったと思う。
   私は『スーパーメトロイド』のラストみたいな感じじゃんって勝手に興奮してました。(笑)


土屋  ああ、確かにあの演出は凄いよね。


猪口  いや、さっきから他のゲームの話ばっかり(主に私が)。(笑)

7.メタさこそ至高の現実

猪口  おっ、これが最後の質問やね。
   今作では「作品自身(コンピュータ)がゲームであることを自覚している」、
   「プレイヤーキャラクターをプログラムが制御している」といったメタ表現が随所に見られますが、
   土屋くん自身はこの表現の魅力は何だと思われますか?


土屋  これ地味に難しいよね。(笑)


猪口  でしょうね。(笑) 質問振っときながら申し訳ない。


土屋  僕は『UNDERTALE』、『ドキドキ文芸部!』、あとあんまりメジャーじゃないかもだけど
   『OneShot』が好きなんだよね。


猪口  そうね。確かにここら辺もメタ要素多いね。


土屋  もともとゲームキャラクターが実在してほしいっていう夢があったんだけど、
   ゲームキャラクター自身がゲームキャラクターであることを認識していることって
   逆説的には一番現実に近いってことじゃないかと思ってて。
   だって、ゲームキャラクターがそんなこと言いだしたら一瞬だけどドキッとするでしょ?
   ゲームの中の存在でしかないと思っていたら現実にまで干渉されている感じがして
   「嘘じゃないじゃん」って。
   …というのが僕が感じてる魅力なのかな。


猪口  確かにそういう表現は現実を認知していないとできないことやからね。
   なるほど…、いや普通に良い回答!(笑)

8.非商業ならでは

土屋  最後に、折角のこういう場なのでお話ししておきたいことが…。


猪口  はい、何でしょう?


土屋  スタッフロールで、全ての内容が流れ終わってからしばらく待つと、
   こんなテキストが流れるようになってます。

猪口  (画像を見ながら)
   あー!はいはい、私も最後まで見たのでこれも見ましたよ。


土屋  これらは今作を制作する際に大いに影響を受けた作品群です。
   商業だったらこんなことしたら絶対怒られまくるけど、今回はフリーゲームだし、
   こういう隠し要素に憧れがあったので入れてみました。


猪口  確かにスタッフロールで見たことない内容だったから珍しいなと思った。
   具体的にどう影響を受けたとかありますか?


土屋  『マリオペイント』は BGM 等の雰囲気、
   『Don’t hug me, I’m scared 4』は舞台設定や世界観など全体的に、
   『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』と『Serial Experiments : Rain』については…
   どこに影響を受けたか、最後まで見れば一発で分かるはず(笑)


猪口  (各作品を調べながら)
   うーん、ほとんど知らない…。(笑)
   でも、今作をプレイしてからこれらの作品に触れてみるのも良いかもしれないよね。


土屋  …なんかまとめづらくてすみません。


猪口  いやいや。(笑)
   本日はありがとうございました!


土屋  ありがとうございました。

作品一覧に戻る